野球部を辞めることに
美加さん(40)の長男たけし君は中学1年生です。小学生の時から体格に恵まれ、地域の野球チームでピッチャーとして活躍しました。中学生になってからも野球を続け、美加さんもその成長を楽しみにしていました。
ところが、夏休み明けから、たけし君は登校できなくなってしまったのです。原因は、野球部内の複数の男子生徒からの暴行でした。
たけし君からそのことを打ち明けられた時、美加さんはすぐには信じられませんでした。なぜなら、たけし君はほかの部員の誰よりも体が大きく、日常的に手を出してくると名前の挙がった数人の生徒は、まだ小学生のあどけなさが残る小柄な男子ばかりだったからです。
美加さんは、たけし君を交えて学校の先生と話し合いました。
今後のことについていろいろと話す中で、先生が最後に一言、なぜ抵抗しなかったのかを尋ねました。先生にしても、体格的にも体力も勝っているたけし君が、相手に止めろと態度で示せば、二度と手出しされなかったのではないかと思えたのでしょう。
すると、たけし君は先生にこう答えたのです。
「体の大きいおれが手を出せば、たとえどんな理由があっても、それはひきょうだ」。
「たけしはまじめだなあ」と言って先生がほほ笑むと、たけし君もつられるように笑顔になりました。
結局、チームメートとの関係がわだかまったことで野球に対する意欲が持てなくなり、たけし君は野球部を辞めることにしました。
大きなおかげ
それから4カ月がたち、たけし君は吹奏楽部でトランペットを吹いています。教会の少年少女会のバンド活動に参加し、トランペットを吹いていた経験を生かしたいと、吹奏楽部に転部することにしたのです。
早朝から部活動の練習に励むたけし君の姿に、不登校にならずに済ませてもらったことへのお礼の気持ちとともに、それ以上に大きなおかげを頂いていることを、美加さんは感じています。
それは、美加さんが嫁いできた当初に聞かされた、ある問題に関係しています。
実は、夫の祖父母にはかつてDV(家庭内暴力)があり、祖父から祖母への暴力が繰り返されていたというのです。
家族としてその問題に取り組み、そうしたことが繰り返されないよう、お互いが改まりに努めてきたことを知った美加さんは、子どもたちにどんな理由があっても人に暴力を振るうことをしない生き方を願い続けていたのです。
たけし君に対するチームメートの暴行は、初めは親しみを込めた、からかい程度だったものが、一向に手出しをしないことでエスカレートしていったようでした。
学校へ行けなくなったのは、暴力で対抗しようとする自分を抑え切れなくなったからだと、後日、たけし君は美加さんに話しました。
13歳のたけし君が、美加さんの願いを心の底でしっかり感じ取っていじめと向き合っていたことを知り、ありがたく思いました。と同時に、ここから先、子どもたちが幸せな人生を築いていく上で、かかわり合う人と互いに助かる生き方になっていくよう、祈りを込める美加さんです。
投稿日時:2009/03/12 13:57:49.659 GMT+9