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宗教を“魂のシェルター”に【金光新聞】

貧困・無縁社会を生きる人々

 近年、家族の絆や地域社会のつながりが希薄となる一方で、非正規雇用の拡大など労働者の利益よりも企業の利益を優先する傾向が強まるにつれ、貧困が社会問題になってきた。こんにちの貧困・無縁社会を生きる人々の難儀を見詰め、宗教が果たす役割について考えたい。

 2008年に起きた世界的金融危機、いわゆるリーマン・ショック以降、日本では「ネットカフェ難民」と呼ばれる若者たちの存在がクローズアップされるようになった。
 従来の 「ホームレス」 のイメージは、路上や公園を生活の場とする比較的高齢の野宿者だったが、 貧困を理由に住居を失い、インターネットカフェなどに寝泊まりする若者が激増したのだ。非正規雇用が労働者全体の4割近くを占め、年収200万円以下が3割に達するなど、不安定な労働環境が多くの若者たちを 「ワーキングプア」 「見えないホームレス」にさせている。
 特に、シングルマザー家庭など、一人親の家庭(父子・母子世帯)では非正規雇用やパート労働がほとんどで、そうした家庭の子どもの2人に1人以上が貧困状態にあるといわれる。「貧困の連鎖」が急速にまん延しているのだ。

 現在、私が奉仕する教会ではアパートの2室を借り受け、 行政と連携しながら、生活に困窮する家族や若者、また夫や親などのDV(家庭内暴力)から逃れてきた女性や子どもに、仮住まいの場を提供するシェルター事業を実施している。この1年間で十数名を受け入れ、再出発に向けた生活支援や相談活動を続けている。
 入居者の多くは、自らも貧困世帯で育ち、十分な教育を受けられずに、最終学歴は中卒や高校中退がほとんどで、学歴格差による貧困の連鎖が現れている。
 20代のある女性は、中学卒業後、実母が再婚すると同時に家から追い出され、知人宅に居候を続け、教会のシェルターへやってきた時には、うつ状態と偏頭痛を抱えていた。
 てんかんの持病がある20代の男性は、高校中退後、実家を出て派遣労働に従事していたが、ある時、勤務中にてんかん発作が起きたために解雇され、ネットカフェで数カ月間生活していた。また20代の夫婦は、ギャンブル依存症の両親から生活費を奪われ続けた末に逃げてきた。

 こうした入居者たちと関わる中、「貧困」とは、経済的な貧しさだけでなく、人と人との関係性が傷ついた状態でもある、と気付いた。本来、愛情や信頼によって紡がれる「家族」の絆が、その関係性の貧困によって歪んでいく。親きょうだいや配偶者から受ける支配や暴力、搾取などにより、魂を痛めつけられた若者や女性たちが、人として生きられる居場所を求めてさまよっている。
 歴史学者の網野善彦氏が『無縁・公界・楽』で描いたように、かつて日本社会には、 世俗権力が入り込めないアジール (聖域、避難所、無縁の場) が多種多様に存在していた。地域に遍在するさまざまな寺社も、アジールとして世俗社会に対する超越性・聖性を顕示していた。

 つまり、宗教施設は、信仰の有無や違いを超え、地域社会からはじき出された多様な人々を無差別に受け止め、再起を促していく、「シェルター」(避難所、駆け込み寺)としての機能を果たしていたのである。
 「無縁社会」と呼ばれるこんにち、「神の氏子」としての本当の自分に出会えるような、聖なる場が求められている。生きる不安や苦しみを受け止めてくれる、魂のシェルターとしての宗教への期待は、次第に広がってきている。

渡辺 順一(大阪府羽曳野教会長)
(「フラッシュナウ」金光新聞2017年3月5日号掲載)

投稿日時:2017/03/07 09:00:00.000 GMT+9



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