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相手の思いにまで耳を傾け【金光新聞】

良い「話し方」になるには

何か相手に伝えなければならないことがある時、どう話せばよいかという自己表現力が重視されがちであるが、コミュニケーションはキャッチボールと同じで受け取りやすい言葉でなければ、なかなか相手の心には届かない。良い「話し方」になるためには、聞き手のことを分かろうとする思いやりこそが大切だと思う。

 皆さんは、普段、会話する時、どのようなことに気を付けているだろうか。
 私は8年前、金光教学院(金光教の教師養成機関)在学中に、カリキュラムの一環として、金光教話し方研究会の「話し方講座」を初めて受講した。その冒頭で、講師から「話し方とは、聴き方です」と教わった。私は、話す時に大事なことは、言葉遣いや話の技法だと思っていただけに、この言葉には、目からうろこが落ちる思いだった。
 ここでいう「聴く」とは、ただ相手の言葉を聞き取るということでなく、「相手の思いを分かろうとする姿勢で耳を傾ける」ことである。講座では、話し手として実際にしゃべる時の視線の向け方や態度なども学ぶが、そのようなことよりも「話し方にとって一番大切なのは、日常のコミュニケーションを通して、相手と良い信頼関係が築けているかどうかである」ということが、何度も強調された。
 しかし、「聴く」ことの大切さを頭では分かっているつもりでも、家庭や職場などの実生活で実践していくことは難しい。私の場合は、話をする時に、言いたいことが、どうすればうまく伝わるかということに重点を置いて、聞き手のことを思いやる心に欠ける傾向がある。

 以前、次のようなことがあった。夕食の時、妻が「今日は、洗濯物を外に干していたのだけれど、知らないうちに雨が降ってきていて。急いで取り込んだものの、少し濡れちゃった」と話し掛けてきた。
 それまでなら、話の隙を見つけて、「天気予報を確認しておかないから」などと言っていたように思う。しかし、その時は話し方講座のことが思い出され、こちらから何か言うことはせずに聴くことに徹していると、洗濯物の話からその日一日を妻がどのように過ごしていたのか、たくさん話してくれた。
 もし、私が妻の話題に解決策を与えるようなことを言っていたら、それで話は途切れ、しばらくして別の話題に移るという、何ともぎこちない会話になっていたように思う。しかし、その日はただ相づちを打って聴いていただけなのに、とても会話が弾み、話す妻の表情も明るく、良い雰囲気となり、こちらもうれしい気持ちになった。言うまでもなく、妻はその日あった出来事や思いを共有したくて、聞いてほしかったのだと思う。
 そして、しっかり聴くことに取り組んでいると、少しずつ妻の反応も変わってきた。例えば、「急きょ、休みの日が出勤になった」などの言いづらい内容が、伝えやすくなったのである。それまでであれば、「どう話せば不快な思いにさせないか」と考え、いくら気を付けても、いざ話すとうまく伝わらないことが多かった。しかし、雰囲気が良い会話ができていると、同じ内容なのに快く聞いてもらえるようになってきた。

 「話し方とは、聴き方です」と教えられた通り、相手の思いを分かろうという姿勢で話を聴けば、相手が気持ち良く話してくれるだけでなく、こちらも相手の立場や考えが分かって、相手の受け取りやすい言葉で話すことができる。分かっていても、いつもそうできるわけではないが、相手も自分も共に生かすようなコミュニケーションへの近道が、良い「話し方」にこそあると信念し、まずは「聴く」ことから真摯(しんし)に取り組みたい。

佐藤光貴(金光教話し方研究会講師)
「フラッシュナウ」金光新聞2020年2月23日号掲載

投稿日時:2020/03/18 10:20:16.681 GMT+9



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