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短い命が教えてくれた【金光新聞】

腹を立てることができるのは

 金光教の教会でご用している私 (35)には、7歳の息子と2歳の娘がいます。昨年、妻が3人目を懐妊し、安定期に入るまで子どもたちに内緒にしながら、楽しみにしていました。
 しかし、妊娠が分かってから1カ月後の検診で、医師から流産していると言われたのです。すぐに処置をするか、自然に出てくるのを待つかと聞かれ、悩んだ末に1週間待つことにしました。
 金光教では、人は亡くなっても、みたま様として私たちを守ってくださると教えられていますが、悲しくないわけがありません。生まれてくる子のことを想像して楽しみにしていた毎日を思い返すと、心にぽっかりと穴が開いたような気持ちになり、なかなか受け入れられませんでした。
 妻はというと、妊娠中もひどいつわりで体重が激減し、1カ月ほど寝たきりだった上、おなかの子どもが亡くなった後もつわりが続いていました。妻も流産したつらさと戦っているのがひしひしと伝わってきました。

 妻がそのような状態のため、 私は慣れないながらも家事をするものの、心に余裕がなく、子どもが騒いだだけでも怒鳴ってしまいました。目に涙をためて私を見る子どもの姿でわれに返り、 「ごめん」 と言うと、子どもも私に「ごめん」と言いながら、ポロポロと涙をこぼしました。
 その姿を見た瞬間、私の心はズキッと痛み、「腹を立てることができるのは、この子たちが生きているからだ。こうやって関わり、触れることができる。遊べるってありがたいことなんだ」と思えたのです。同時に、「この心の痛みは神様からのお知らせだ」と感じました。大切なことに気付かされた私は、つらい中にも少しずつ前を向けるようになりました。
 そうして慣れない家事や育児の大変さを味わう中で、毎日それらを担ってくれていた妻に感謝の気持ちが生まれ、私は家族に助けられて、自分のご用ができていたことを分からせて頂きました。

心の中で生きてる

 そして、1週間を迎えました。教会のご神前でご祈念をしていると、「この子は短い命だったけれど、多くのありがたいことを教えてくれている。この子の命の働きを生かすのは私たち次第」という思いが湧いてきました。妻と話し合い、子どもたちに真実を伝えるため、お広前に二人を呼びました。
 「実は、お母さんのおなかの中に赤ちゃんがいたんだけど、その子が死んでしまったんだ。会えないけれど、これからはみたま様になって家族を守ってくれるからね。人が生まれるって奇跡なんだよ。きょうだいで遊べるのも、けんかできるのもありがたいことなんだよ。これからもこの子と一緒に生きていこうね」
 この話を真剣に聞いてくれた息子は、残念そうな表情を浮かべながらも、「でも、心の中で生きてるよね。もしかして風になってるのかも。僕、妹と仲良くするね」と言ってくれました。

 その晩、 妻が 「子どもたちと相談して、 赤ちゃんに、 『恵(けい)』という名前を付けたよ。『この子は家族にとってのお恵みになる』という意味を込めてね」と、穏やかな表情で話してくれました。そして、亡きがらのない中ですが、家族でお葬儀を仕え、翌日、処置をして頂きました。
 それから1年がたった先日の朝のこと。寝起きの息子がキラキラした目でこう言いました。「夢に恵ちゃん出てきたよ。それで、自転車のかごに乗せて一緒に遊んだよ」
※このお話は実話をもとに執筆されたものですが、登場人物は仮名を原則としています

「心に届く信心真話」2020年8月30日号掲載
メディア 文字 信心真話 金光新聞 

投稿日時:2021/09/16 14:51:25.650 GMT+9



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