文字サイズ
文字サイズ
HOME › 教会信奉者の方へ › 神人あいよかけよの生活運動 › 「教報天地」運動のページ
金光教報『天地』 12月号 神人あいよかけよの生活運動
生まれた時から「人を導く」実践者 小出雄三（福岡・大橋）
ご婦人に差し込んだ光
平成24年に「神人あいよかけよの生活運動」が発足した当時、33歳だった自分は、「願い」の文言が長いなど、否定的なことばかり考えていました。それから８年、金光教教師のご任命を頂いてから、半分以上の年月を、この「運動」と共に過ごしてきたことになり、振り返ると、「運動」に取り組んで数々のおかげを頂いてきました。
最初に、自分が「運動」に取り組もうと思ったきっかけは、失恋でした。その時、「やはり自分には神様しかいない」と思いました。そして、何か自分自身が成長しないといけないと思っていた時に、「願い」の文言に目が止まり、「ご祈念をしなければ」という思いになりました。
その頃、ちょうどご本部で宿泊を伴う御用があり、金光様のお出ましと朝ご祈念を頂きました。けれども、心の中は「ありがたい」というものではなく、一言で言えば「こんなに頑張っているんだぞ」という幼稚なものでした。見た目だけは、さもありがたそうにお出ましを頂き、朝ご祈念には神前と霊前の中間のお広前の一番後ろに正座して臨みました。
その時、自分のそばにあった最後列の椅子に、年配のご婦人が座っておられました。そのご婦人は神前拝詞が始まると、すぐに左右に揺れはじめ、後ろから見ても寝ているのは明らかでした。心に余裕のかけらもなかった自分は、「なんでこの人寝ているんだ。自分は真剣にご祈念している。視界にチラチラ入って邪魔しないでくれ」と怒りにも似た感覚でいました。次第にそのご婦人の揺れ幅が大きくなると、こちらも心配になってきて、「椅子から落ちそうなら助けなければ」と思うと、ご祈念そっちのけでご婦人の方ばかり見ていました。幸いにも落ちることはなく、神前のご祈念を終えての四拍手の時に、そのご婦人はスッと姿勢を正し、本当にありがたそうに拍手をされました。
私は思わず、「寝とったやん！」と、心の中で叫びました。ありがたそうな格好だけで全然神様に向かってなかったのにと、その人を責める気持ちで心がいっぱいになっていました。
ところが、心の中はそんな状態だったのに、そのご婦人を見ていた目から、涙がポロポロ溢れてきました。意味が分からず、「えっ？ どうして」と思っていると、涙がたまった目で見ていたご婦人に、本部広前の光が当たり、そのご婦人を照らし輝かせているように見えてきて、「ああ、神様はこの方のことを、本当に慈しんでおられるのだろうな」と思えてきました。
神様が私たち氏子を慈しんでおられるのとは反対に、人を責める心であった自分が小さく感じられ、情けない思いと同時に喜びを感じました。神様はきっと自分のことも同じように慈しんでくださっていると思え、安らかな気持ちに包まれました。
ご祈念が終わり、お結界で金光様にお礼を申し上げた時に、いつもはご無礼があってはいけないと緊張するのですが、心が空っぽになったような感覚で、ただただ「ありがとうございます」とお届けさせていただきました。神様に向かえば、初心の心根が間違っていても、神様がよいようにしてくださるのだと思えました。
帰路に就きながら、「失恋したことは、今日この時を自分に見せてくださるために、神様が用意されたことではないか」という気持ちになり、喜びを持って帰ることになりました。そして、勇気を出して、もう一度彼女に告白したのですが、結果は駄目でした。けれども、このことはありがたい体験だったと思います。
「最後の最後は神様です」
失恋を経て少しは成長させていただけたのか、その後、素晴らしい女性と出会い、結婚のおかげを頂くことができました。当時、私が37歳、妻が35歳と、世間から見れば高齢ではありましたが、二人とも子どもに恵まれることを切に望んでいました。
２年が経ちましたが子どもを授かることはなく、不妊治療という言葉が夫婦の会話に上がるようになりました。しかし、自分は子どもを頂くために治療をすることには抵抗がありました。医学も神様のお働きの中でのことと頭では分かっていましたし、学院生の時に拝読した『史伝近藤藤守』に、「患者に治療をしている医師の後ろで、教師がご祈念している。なんと美しい姿であろうか」とあった記述に感動したことがありましたが、妊娠に対する人工的な施術は、人間の範疇を超えているのではないかとの思いが常に悩みとしてありました。
そんな中、多くの方のお祈り添えを頂き、神様のお気づけもあって、妻は不妊治療を受けることを決心しました。一方、自分は初期の治療が始まっても、早期の段階で妊娠するのではと、甘く考えていました。しかし、依然として妊娠の兆候はなく、信心しておかげを頂かなければと、食事や喫煙などの生活面の見直しはもちろん、各所の洒掃や夫婦だけのご祈念帳を作ってご祈念するなど、さまざまなことに取り組みました。特にご祈念では、「人を祈り」を大切にさせていただきました。
不妊治療を受けるか悩んでいた妻に対し、ある方が「私も不妊治療を受けるかどうか悩んでいる時に、看護師の方から『最後の最後は神様なんですよ。人間の力だけでは妊娠はできません』という言葉に安心した」と妻の背中を押してくださるなど、神様はくじけそうになる私たちを後押しするようにおかげを下さいましたが、不妊治療を２年続け、高度な治療を行っても、望む結果はやってきませんでした。
不妊治療は夫婦で取り組むといっても、精神的にも肉体的にも女性の負担が大きく、高度な治療ともなると、女性はシール型の薬をずっと体に貼り、毎日注射を打たなければなりません。シールを貼り続ける妻の肌はかぶれ、かゆみが止まらず、満足に眠れない日々が続きました。その苦しみの後に、確実に懐妊という幸せが待っている訳ではありません。悲しい結果が出るたび、妻の落ち込みようは見ていられず、一時は夫婦の会話に「いつ不妊治療をやめようか」という話が出ることもありました。
それでも神様のおかげを頂きたいと、私たちが取り組んだのは、お取次を頂くことでした。改まった心でお取次を頂くと、師匠である福岡教会の親先生は、妻と握手をして「必ずおかげ頂く」と元気づけてくださり、妻も「妊娠できるような気がしてきた」と大変喜びました。また、ご本部のご大祭に夫婦で参拝させていただき、「懐妊のおかげを頂きたい」とお結界で申し上げたその瞬間に、神様が私たちを祈ってくださっていることが、全身から伝わってくるような感覚を受けました。お取次を頂くことで、神様のお働きはもちろん、多くの方の祈りに包まれていることを実感でき、本当にありがたい気持ちになりました。そして、夫婦で最後と決めていた治療で、私たちは女の子と男の子の双子を授かる大みかげを頂いたのです。
存在自体が神様のお働き
現在、子育ての真っ最中ですが、世のお母さん方はすごいと思います。覚悟はしていたつもりでしたが、子育ては大変なことも多いです。初めて子どもたちと一緒に寝た夜は、眠りたくないほどでしたが、ここまで寝かせてもらえないとは思いませんでした。２時間ほどでおなかがすいたと泣く子どもたちに、夫婦とも体力を奪われていきました。体のあちこちは痛くなり、何よりゆっくり眠りたいと精神的にも参ってきました。それまでは、世間で起こる育児疲れからくる事件に対して、子どもを授かるのは当たり前ではないのに、と怒っていましたが、その気持ちが分かるとさえ思いました。
それでも、赤ちゃんは泣くことはできても、自分でミルクを飲むわけにはいきません。ただただ親を信じて泣くのです。その姿に、自分は天地金乃神様を親と頂いていると言いながら、この子のように親神様を信じきって泣けているだろうか。自分の知恵で別の食物をつまんでいるのではないかと、わが子に教えられることもありました。
体力的にはつらいのですが、いざ赤ちゃんのお世話をする時になると、不思議と力が湧いてきて、まるで赤ちゃんが力を与えてくれるようでした。そんな状態が続いたある日、白昼夢を見ているかのように、子どもたちが自分の親指ほどしかないその小さな手で、一生懸命私たち夫婦を持ち上げて支えてくれている映像が、自分の中に浮かびました。体の中から熱くなるような感覚があり、自分たち夫婦がお世話をしているのではなく、子どもたちがさせてくれているのだと思えました。その時に電撃が走るように、この子たちの存在こそ、神様のお働きなんだとの思いが生まれました。
きっと、人は生まれた時からすでに「運動」を実践していると思います。もっと言えば、赤ちゃんの存在そのものが「願い」の文言の実践者のように思えます。ただ泣くことしかできなくても、親になろうとする私たちを祈り、助け、導いてくれているのだと思うのです。本当に神心そのままの存在です。自分にも、そんな時代があったはずですが、どうやらそこから人間心のみ大きく育ったようです。
「神人あいよかけよの生活運動」とは、私たちが生まれてきた時にすでに神様から頂いていた、おかげの賜物である自分を見ていくことであると、今は頂いています。最近は、子どもたちが見せる笑顔が、「お父さん、和賀心になっている？」と言われているように感じ、楽しい日々を頂いています。そして、人間心が育った自分だからこそ、神心の素晴らしさに気付くことができ、感動することができるんだと自分自身に言い聞かせ、これからも家族で「神人の道」を現してまいりたいと願っています。
（2020/12）
