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出てこないのもおかげ【金光新聞】

誕生日の前日に

 3年前の6月16日、次男・浩太の12歳の誕生日前日のことです。学校から帰ってくるなり遊びに出掛けて、なかなか帰ってこない浩太のことを案じながら、夕飯の支度をしていると、一本の電話がかかってきました。
 電話に出ると、交番の警官からでした。驚いた私は心の中で、「金光様」と思わず念じました。すると、「浩太くんが悪いことをしたとかではないですよ」と言うので、ひとまずほっとしましたが、「浩太くんが公園で友達と野球をしている間に、自転車に置いていたリュックサックが盗まれたそうです。今から現場に来てくれませんか」と言われたのです。
 突然の警察からの電話でびっくりしましたが、事故やけがではなかったことに一安心して、自転車を走らせました。現場に着くと、数人の警官と小学校の先生、そして、浩太と一緒に遊んでいた子どもたちが10人くらいいて、物々しい雰囲気でした。
 浩太以外にも2人の友達が持ち物を取られましたが、貴重品だけが抜き取られ、かばんは垣根の陰に捨てられていたそうです。しかし、携帯型ゲーム機、数年かけて集めてきたカードゲームのカード、それとお金が少し入っていたという浩太のリュックサックだけは、全く見当たりません。

 その日、被害届を出して家路に就いたのは午後10時ごろでした。帰る途中、宝物を一切合切失って意気消沈する浩太に、「事故やけがに遭わなくて良かったよね。ゲーム機やカードは見つかるように神様にお願いしようね。神様がもっと大変になるところを、このくらいにしてくださったのかもしれないよ」と声を掛けて慰めましたが、浩太は目を赤くして黙ったままでした。
 家に着くと、夫が玄関で出迎えてくれましたが、夫から「物を盗むことは良くないけれども、浩太が油断したから、相手に悪い心を起こさせてしまったのかもしれないぞ。お父さんと一緒に神様におわびをしよう」と言われて、神妙な表情をしていました。

浩太くんの変化

 翌日も浩太は、いつもの元気はなく、沈んだ気持ちのまま誕生日を迎えることになってしまいました。浩太は「お巡りさんがきっと見つけてくれる」と期待して毎日待ち続け、私もリサイクルショップにでも売られているのではないかと思い、何件かのお店に電話で問い合わせたりもしました。
 それでも浩太には、「無くした物が出てくるのもおかげだけれども、出てこないのもおかげなのかもね。本当の意味でのおかげは人間には分からないものだからね」と、自分にも言い聞かせるように度々話しました。
 結局、取られた物が出てくることはありませんでしたが、浩太は1週間が過ぎた頃にはそのことに触れることも減り、気が付けば元の元気な姿に戻ってくれました。

 今、その時のことを振り返ると、「もし、盗まれた瞬間を浩太が目撃していたら、もっと大きな事件に巻き込まれていたかもしれない。気付かないうちに取られてよかったのかもなあ…」と思うとともに、大きな事件に巻き込まれることなくここまで成長させて頂いたことを、神様にお礼申さずにはいられません。
 さらに、神様からご覧になれば、盗んだ人も助かってほしいと願われているのではないかと思えるようになりました。それ以来、この一件を思い出すたびに、その人の助かりを祈っています。

※このお話は実話をもとに執筆されたものですが、登場人物は仮名を原則としています

(「心に届く信心真話」2018年6月3日号掲載)
メディア 金光新聞 信心真話 

投稿日時:2019/07/25 08:52:02.804 GMT+9



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