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つまずきは人生の宝物【金光新聞】

順風満帆な人生が

 辰男さん(30)は、小さいころから負けん気の強い、活発な少年でした。その性格は、勉強やスポーツの上に遺憾なく発揮されました。とりわけ、バスケットボールには情熱を燃やし、中学3年生の時に県大会出場を果たした際には大きな原動力となりました。

 その後、志望高校に進学した辰男さんはバスケット部に所属し、すぐに正選手となりました。上昇志向の強かった辰男さんにとって、順風満帆な人生が続いていました。

 しかし、高校2年の一学期が始まると、その歩みが狂い始めたのです。前日、登校準備を整えて就寝するものの、翌朝になると、心と体が拒絶反応を示すかのように体が動かず、起き上がれなくなったのです。そうして、登校できない状態が一週間、一カ月と続き、やがて、自宅にひきこもったまま、昼夜逆転の生活となりました。

 辰男さんが登校できなくなった背景には、クラブ顧問の先生との不仲があったようで、急速にクラブ活動への情熱が冷めてしまったのです。それまで、自分の思うように物事が進んできただけに、このつまずきは辰男さんの心に大きな変調をもたらし、その後どうしても復学する気が起きず、結局、高校を中退することになったのです。

「ここまで来るのに、十年以上かかったなあ」

 辰男さんは心身の回復を待って、取りあえず働くことにしました。ですが、高校中退では、給料や待遇面で大きな格差があるという厳しい現実を目の当たりにし、辰男さんは動揺しました。

 かといって、復学を希望する両親に逆らうようにして就職したこともあって、今さら後には引けないという意地のようなものもあり、仕事をしながら大検(大学入学資格検定試験)を目指して頑張ることにしました。その後、大検に合格した辰男さんは医療専門学校で理学療法士を目指して4年間勉強し、卒業後は、親元近くの病院に勤務することになりました。

 理学療法士が日々接する相手は、その多くが高齢者です。療法士の指示通りにリハビリに励んでくれない患者さんが少なくない中で、当初、その対応に戸惑い悩む時期もありましたが、次第に相手の気持ちをくみ取った対応ができるようになりました。やがて、患者さんは辰男さんの指示に従って体を動かしてくれるばかりか、「ありがとう」と感謝し、喜んでくれるようになりました。

 「ここまで来るのに、十年以上かかったなあ」。実家で、ふとそう漏らした辰男さんに、母親の道子さんは、「学校へ行けなくなった時の宝物だね」と言いました。

 「確かに、僕は物事の一面しか見ていなかった。学校へ行けなくなってからの経験で、そのことが分かった。でもそれは、僕の人生の宝物かもしれない」と、辰男さんが続けると、道子さんは「あなたは学校での勉強以上に大切なことを学んできたのだと思う。あなたは上ばかり目標にしていたけど、弱い立場の人の気持ちが分かるようになって、よかったね。生きていく上で何が大切かを分からせてもらって、本当にありがたいね」と応えました。辰男さんは、道子さんが祈りを通して自分を支え続けてくれたことに感謝せずにはいられませんでした。

 現在、結婚し一児の父でもある辰男さんは、妻と息子が神様に手を合わせる姿に、心の安らぎと、ささやかながらも確かな幸せを感じています。

※このお話は実話をもとに執筆されたものですが、登場人物は仮名を原則としています。
メディア 文字 信心真話 よい話 金光新聞 

投稿日時:2009/11/12 16:25:16.673 GMT+9



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