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幸せは苦労の先にある 【金光新聞】

こんなことをされたら、泣いてしまうわ

 一年ほど前のことです。佳子さん(75)のもとに、優しい色合いのバラの花束が届きました。
 「私に? 一体、誰からだろう」。佳子さんが、けげんに思ったその時でした。奥の部屋から声が聞こえてきました。
 「わしからや。これまで、お前には世話になるばっかりやったもんな」
 声の主は、ベッドに横たわっていた夫の忠男さん(75)でした。
 忠男さんは、10年ほど前に腎臓を患い、やがて肺がん、それが肝臓へと転移し、病院への入退院を繰り返しました。
 「もう、これ以上の処置はありません」。医師からの言葉に、佳子さんは夫の最期を自宅でみとりたいと希望し、酸素ボンベを運びこんでの自宅療養を始めていたのです。
 「こんなことをされたら、泣いてしまうわ」。バラの花束を手に、佳子さんはそう言って、あふれる涙を隠しました。
 思えば、苦労ばかりの夫婦生活でした。気難しいしゅうとめのもと、長男の嫁として、弟たちが同居する大家族を切り盛りし、「私は、この家に家政婦として来たのか」と、腹立たしく思った時期もありました。

 そんな中で、家業が傾き始めると、手探りの中、夫婦で新しい事業を起こしました。この時、周囲の視線は厳しいものでしたが、「二人でやろうと決めたことだから」と夫婦で励まし合い、失敗を繰り返しながらも、やっとの思いで事業を軌道に乗せたのです。
 そうして、子どもたちもやがて独立していき、やっと穏やかな夫婦生活を送れるようになったと思った矢先に、忠男さんが病に倒れたのでした。
 「何で私には、こんなつらいことばかり起きるのだろうか」「いくら頑張っても駄目なんだ」そんな思いに、くじけそうになることもありましたが、佳子さんは、そのたびに、教会で苦しい思いを吐き出し、神様に願っていきました。そして、気を取り直しては問題に向かいました。
 「私は愚痴しか言えませんでした。でも、教会があったから、神様に向かえた。信心があったから、今日までやって来られました」と、佳子さんは言います。

よう似おうとるで

 佳子さんのもとに花束が届いた数日後のことです。もう、歩くことのできなくなった忠男さんが、どうしても行きたいところがあると言い出しました。佳子さんは、夫の最後の願いだからと、車椅子を用意して出掛けました。
 行きたい場所とは、近くのショッピングセンターでした。忠男さんは婦人服コーナーに向かうと、「欲しい服を選び。安いのは駄目やで」と佳子さんに言って、服を選ばせました。

 帰宅後、「おーい、さっきの服、わしの前で着て見せてくれんか」といい、真新しい服に身を包んだ佳子さんの姿に、「よう似おうとるで」と、満足そうに目を細めたのでした。
 佳子さんは、「あんまり優しいことばっかりすると…」と言いかけて、その後は言葉になりませんでした。
 その数日後、忠男さんは、帰らぬ人となりました。子どもと孫やひ孫たちに囲まれての、にぎやかな旅立ちでした。
 「主人は本当に幸せでした」と語る佳子さんの顔もまた、幸せそうでした。その表情は、本当の幸せとは苦労や困難を乗り越える中にこそあるのだと教えてくれているようでした。
メディア 文字 信心真話 金光新聞 

投稿日時:2011/04/27 09:35:11.312 GMT+9



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