title.jpg

HOME › お金よりもいいものが【金光新聞】

お金よりもいいものが【金光新聞】

「どうして世の中は、こんなにも不公平なんですか」

 今から5年ほど前、私の奉仕している教会に突然、50歳くらいの見知らぬ男性が訪ねてきました。玄関先で用件を尋ねると、こざっぱりした身なりのその男性は、次のような身の上話を始めました。
 小学校低学年の時、両親が離婚し、母親に引き取られて苦しい経済状況の中で幼少期を過ごしたこと。高校卒業後、大学進学を考えたものの、経済的な理由で諦めざるを得ず、地元の企業へ就職し、30歳で結婚して2人の子どもを授かるも、45歳の時にリストラに遭ったこと。その後は思うような職に就けず、生活に困窮し夫婦仲も悪くなり、ついには奥さんが子どもを連れて家を出ていったこと。その後、何もかもが嫌になり、2カ月前に家を飛び出し、今に至っていることなどを、とつとつと語りました。

 男性は話し終えると、「どうして世の中は、こんなにも不公平なんですか」と、訴えるように言いました。
 その男性の話を聞かせてもらいながら私は、頼るものが何もなく、世の中の不公平さと、わが身の不幸を嘆かれるこの男性に、助かってもらいたいと心から思いました。
 そして、お金を貸してほしいと言われたので、「物やお金はいくらあっても、いつかはなくなります。それより、もっといいものがありますが、要りませんか」と語り掛けてみたのです。
 男性は即座に、「はい」と返事をしました。私が、「少し時間がかかりますが、よろしいですか」と言うと、「時間なら大丈夫ですから」とのことでした。
 「私の話を少し聞いてもらいたいのですが」と言うと、それまでの表情とは打って変わって、けげんな面持ちになりました。おそらく男性は、私が何かを持ってきて与えてくれると思っていたのだと思います。

だんだんと耳を傾けてくれるようになり

 私は、「人間は、天と地の間で生かされて生きています。でも、自分の力で生きていると思っている人もたくさんいるようです。あなたはどう思われますか」と尋ねてみました。男性は、「ええ、これまで自分の力で生きてきました」と、けげんな表情で答えました。
 続けて、私が「生きていくためには、食べていかねばなりません。その食べ物はどうやって私たちの所に届いていると思いますか」と尋ねると、何を当たり前のことを聞くんだと言わんばかりに、男性の表情が険しくなりました。
 さらに私は、「食べ物もそうですが、人間は水や火を使わなければ生きていけません。しかし、水も火も人間が作ったものではありませんね。全て天地のお恵みです。私は、この天地の働きを『神様』として拝んでいます。あなたは、この世の中は不公平だと言われましたが、天地のお働きは皆、平等に受けています。どうぞ毎日、この天と地に手を合わせ拝んでください。そして、これからの人生が立ち行くよう神様にお願いしていってください。この天地のお働きは無限ですから」と話させて頂きました。

 男性は初めはけげんな表情でしたが、だんだんと耳を傾けてくれるようになり、「そう言われてみれば、そうですね」と、何かを感じ取ってくれたような表情で言いました。
 「これから、元気を出して頑張っていきます」。男性は、来た時よりも少し晴れやかな顔つきで教会を後にしました。 私はその後ろ姿に手を合わせ、神様に今後の立ち行きを祈らずにはいられませんでした。

 ※このお話は実話をもとに執筆されたものですが、登場人物は仮名を原則としています。

(「心に届く信心真話」金光新聞2015年12月27日号掲載)

メディア 文字 信心真話 金光新聞 

投稿日時:2017/05/07 09:00:00.000 GMT+9



このページの先頭へ