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不安の中での異国生活【金光新聞】

ハワイの転勤先で

 皆さんは神様の声を聞いたことがありますか?
 そもそも、私(48)は、神様の声なんて聞こえるわけがないと思っていました。あの日のあの 「事件」に出合うまでは…。
 今から15年前、私は仕事の都合でアメリカ合衆国ハワイ州へ転勤しました。
 当時、 私は英語がそれほど流ちょうに話せず、まして初めて異国の地で生活することに不安を感じていました。
 さらに、仕事の上でも、現地の人たちと英語での微妙なニュアンスのやりとりが求められ、デリケートな問題についても話し合わなければなりませんでした。そのため私の不安は日増しに大きくなっていました。
 渡米する数カ月前から英会話教室に通い、必死に勉強し、ハワイに赴任したものの、いまだその不安は拭い切れていなかったのです。

 そうして赴任して間もないころ、ホノルル市街のバス停留所に向かう際、同行していた日本人の上司が、近くで何かを叫んでいる中年男性を見つけてこう言いました。「あの人が何を言っているのか分かりますか」。見ると手に何かを抱えながら、通行人に向かって大きな声で叫んでいます。私にはその声が 「ぺっ! ぺっ!」と、聞こえました。 「ぺっと叫んでいるのですか」と尋ねると、上司は笑いながら「あれはね、『ペーパー』と言いながら新聞を売っているんですよ」と、教えてくれました。
 しかし、何度耳を凝らしてみても、私には「ぺっ!」としか聞こえませんでした。
 私は、聞き取れて当然だと思っていた言葉すら聞き取れなかったことに少なからずショックを受けました。そして、こんなことで、ちゃんと仕事ができるのだろうかという不安に駆られて、目の前が真っ暗になりました。

光が差し込んだ瞬間

 それでも仕事を辞めるわけにもいかず、聞き違えや言い違えで恥をかきながらも、毎日必死で耳を澄ませ、身ぶり手ぶりを交えながら話しました。
 それから3カ月がたち、仕事の所用で、今度は私1人で再び市街のバス停留所に向かいました。すると、以前と同じように例の男性が新聞を売っていました。
 その男性のすぐ前を通り掛かった時です。私の耳に 「ペーパー! ペーパー!」という叫び声が飛び込んできたのです。
 その瞬間、私は、雷に打たれたような感動に包まれ、「聞こえなかったものが聞こえた? これってものすごいことじゃないか! 人間は、なんて大きな可能性を秘めているのだろう!」と心の中で叫びました。
 そして、不安の闇の中にいるように思っていた心に、光が差し込んだように感じました。
 その後、8年間、ハワイでの業務を無事に勤めることができたばかりか、数多くの良き思い出と友人を得ることができました。

 私は、この経験を通して、「一生懸命、人の話を聞かせてもらう」こと、また「言葉にならない心の声に耳を傾けること」の大切さも学ばせてもらいました。同時に、人間は「神様の声」を、本気で聞きたいと願い、必死に求めていくと、本当に聞こえるようになるかもしれないと思えるようになりました。
 帰国した今も、あの時の感動を忘れず、他の人の心の声や神様の声に、耳を澄ますことができる自分でありたいといつも願っています。

※このお話は実話をもとに執筆されたものですが、登場人物は仮名を原則としています。

(「心に届く信心真話」金光新聞2016年2月7日号掲載)


メディア 文字 信心真話 金光新聞 

投稿日時:2017/07/05 09:00:00.000 GMT+9



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