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夫を変えるのではなく【金光新聞】

破られたお書き下げ

 7年前、母が72歳で亡くなりました。母の生きざまは、娘である私を神様に出会わせてくれ、幸せを生み出す生き方を教えてくれたものでした。
 金光教の信奉者だった母は若い頃、悩み事を抱え、教会でお取次を頂いたそうです。母の話を聞いた先生は、色紙に「どろの心」と、お書き下げをしたためられました。
 以来、母はそのみ教えを心に据え、大切にしていました。ところが、熱心に信心をしていた母に対し、父は「なんで神様なんかに頼るとか!俺に頼れ!」と、怒鳴りつけることもありました。
 父は元々、人一倍責任感が強い性格でした。しかし、過去にわが子と父親を相次いで亡くすという悲しい出来事が起きて以来、自分のせいだと思い込み、心を閉ざし、母に強く当たるようになっていたのでした。

 そんな中、ある嵐のような風が吹く夜のことです。体調を崩し、仕事から早めに帰宅した父は、母に「休むから着替えを」と言って、寝室に行きました。ところが、何か気に入らないことがあったのか、突然、怒り始めたのです。
 そして、母が大事にしていたお書き下げを引き破り、部屋にあった小さなお社と一緒に窓から投げ捨てました。母は懸命になって、見つけ出しましたが、 その無残な姿に、涙をこらえることができなかったと言います。
 その後、母はつらい気持ちを抑え、「夫が変わるにはどうしたら…。家族みんなが助かるにはどうしたらいいの?」と考えるようになりました。
 しかし、いくら考えても祈っても、現実はどうにもならないのです。心が折れそうになっていた頃、教会にお参りする中で、ある思いが胸に浮かびました。

『どろの心』を求めて

 「夫を変えるのではない」。母はハッとし、「そうだ。本当は優しい面もあったのに、夫を『悪者』としてしか見られなくなっていたのは私だった。『どろの心』とは、大地のように、どんなことも受け入れ、自分から幸せを生み出していく心のことだったんだ」。
 そう思えた途端、母は気持ちが楽になり、「まずできることから」と、普段の食事や会話など、夫に対して丁寧に、心を込めて接することを心掛けていきました。
 「あの夜、夫が腹を立てたのも、体調が悪いと聞いていながら、『大丈夫?』 のひと声も掛けてあげられなかった私も悪かった」。そのように、一つ一つの出来事を見詰め直す稽古をしていったそうです。そして、20数年という年月がたつ中で、父の心は春の日差しに照らされたかのように、少しずつ穏やかなものになっていきました。

 父は亡くなる1カ月前、 母にこんなことを伝えたそうです。「三喜子…、すまんかったなあ。俺の心は今、助かっている。おまえには迷惑を掛けた。金光教でよかった。ありがとう」。その言葉に母は「いいえ、お父さんのおかげで私も幸せを頂きました。感謝しています」と言えたことを、うれしそうに話してくれました。
 あの夜、引き裂かれたお書き下げのように、互いに思いを通わせられなくなっていた両親。けれど、目の前のことから逃げることなく、全てを受け入れていった母の信心を、神様はお受け取りくださり、ひと針ひと針、つなぎ合わせてくださったのだと思います。
 私は今、そんな母を心から誇りに思います。そして、私もまた、母のように、幸せを生み出す心を育てていきたいと願っています。

※このお話は実話をもとに執筆されたものですが、登場人物は仮名を原則としています

「心に届く信心真話」2019年7月21日号掲載
メディア 文字 金光新聞 信心真話 

投稿日時:2020/08/16 06:04:12.370 GMT+9



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