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母娘の絆を結ぶ誠心誠意の看病【金光新聞】

心が軽くなるように

 私(57)が奉仕する教会に、啓子さん(33)が参拝するようになって10年になります。啓子さんはいつも「先生っ、聞いてください」と言って、困っていることから、うれしかったことまで、日常の出来事を何でもお結界で話してくれます。どんなことでも教会にお参りして神様にお礼をし、お願いすれば、神様のおかげが頂けると実感してきたからです。
 金光教の信心をしていた友人に誘われてお参りするようになった啓子さんは、初めの頃は暗く険しい表情をしていました。こちらが尋ねてもぶっきらぼうに答えるだけでしたが、少しずつ、ポツリポツリと悩みを話してくれるようになりました。私は、彼女が抱えるものを吐き出し、心が軽くなるよう、啓子さんが教会にお引き寄せ頂いたことを神様にお礼申しながら、時間をかけて話を聞きました。
 ある時、啓子さんは自分の生い立ちを話し始めました。幼い頃、家計は大変苦しく、両親は共働きで、きょうだいもいなかったので、一人で過ごす時間が多く、放置されているようでつらかったと言います。そうした思いがわだかまりとなって、母親には反抗的な態度を取っていました。
 啓子さんが参拝を始めて半年後、母親の美由紀さんも教会にお参りするようになりました。娘がお参りしていると聞いて興味を持ったようで、若い頃に故郷を飛び出した美由紀さんは、心のよりどころを求めていたのかもしれません。すぐに教会の雰囲気になじみました。

わだかまり残る中で

 数年がたち、啓子さんは良い相手と巡り合って結婚しました。そして、一生懸命に勉強して仕事に役立つ資格を取りました。仕事もプライベートも順調に思えた矢先、美由紀さんの持病が悪化して、看病が必要になりました。
 看病のためには、仕事を辞めなければいけませんでした。さらに、幼い頃からの母親へのわだかまりも残っていた啓子さんは、教会にお参りに来ては、自分はどうすればいいのか、迷う心の内を話してくれました。そのたびに私は啓子さんの気持ちを受け止めながら、「今はお母さんを大事にさせてもらったら」と話しました。その後、啓子さんはきっぱりと仕事を辞めて、看病に専念する決断をしました。
 美由紀さんが入退院を繰り返すようになると、啓子さんも看病疲れで倒れそうになることも多々ありましたが、わだかまりなど一切感じさせないくらい、啓子さんは美由紀さんを大切にして、誠心誠意、尽くしていきました。

幸福感に満たされて

 そんな生活が4年ほど続いた頃、啓子さんが退院した美由紀さんを連れてお参りしました。美由紀さんは、ご祈念後も一人手を合わせて長い心中祈念をし、お結界の前に介助されながら進んでも、ひたすら心の中で、これまでの感謝の思いをお届けしているようでした。それは、言葉にはなりませんでしたが、啓子さんが横から「ありがとうって言ってるん?」と尋ねると、ゆっくりうなずきました。
 そして、二人が帰ろうとした時、車に乗った美由紀さんの表情は穏やかで、神様のおかげの中で生かされていることへの感謝と幸福感で満たされているように見えました。私は、その様子に思わず涙がこぼれました。それが、美由紀さんの最後の参拝となりました。
 現在、啓子さんは子どもと、啓子さんのお父さんの3人で、うれしそうにお参りを続けています。そしてお結界で、最近あった出来事を、あれこれと話してくれています。

※このお話は実話をもとに執筆されたものですが、登場人物は仮名を原則としています。

「心に届く信心真話」2022年5月25日号掲載

メディア 文字 金光新聞 信心真話 

投稿日時:2023/05/08 10:00:00.021 GMT+9



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